|| 倫敦納豆 12/04/30 (月)02:38
今年の春天路線は不穏な流れだった。前哨戦らしい前哨戦は1番人気が全敗。特に阪神大賞典でのオルフェーヴルの謎の敗戦と、日経賞でのネコパンチの単勝万馬券はレース予想を困難にしていた。ただし人気はオルフェーヴルへの一極集中(1.3倍)。これは阪神大賞典での敗戦が力負けではないとみられたからである(別の意味の不安は強かったが)。続いてウインバリアシオン(9.8倍)、トーセンジョーダン(10.2倍)、ギュスターヴクライ(15.5倍)である。 前走阪神大賞典で見せた行きたがる気性は悪癖とみなされ、今回のオルフェーヴルは後方に構えることが公言されていた(騎手の意思に反して馬が暴れる可能性はあったが)。従って、先行勢が「オルフェーヴルに」早目に潰される可能性は少ない。大逃げ策は一定の客が予想したはずであり、逃げ馬候補が上位人気に入らなかったのは、それらの馬が弱いとみなされていたからだ。
(ラップタイムはマラ男さんの文をご参照下さい)
まず始めに先頭を争ったのは、ビートブラック、ナムラクレセント、ゴールデンハインドの3頭。ナムラクレセントは早目に前を譲り、和田騎手なりの判断があったのかと思ったが、結果(9着)から推測するに馬の出来の違いなどだったのだろう。残り2頭のうち、先頭を奪い切ったのは「大逃げの荻野」のゴールデンハインドだった。 この3頭から大きく離れてユニバーサルバンク、ケイアイドウソジン、トウカイトリックと続き、次がトーセンジョーダン、その後ろにギュスターヴクライがいて、ウインバリアシオンはさらに後ろ、オルフェーヴルは後ろから3番目であった。前の2頭とナムラクレセントとの間が開き、ナムラクレセントは前2頭と4番手以降の中間になる。先頭と4番手との差は、向正面で目測で3秒強。 11F目で、ビートブラックがゴールデンハインドに並んで先頭に立とうとする。しばらくは並走するが、ゴールデンハインドは手綱を必死に動かした状態で余裕がない。残り5〜4Fのあたりからようやく後続が急ぎ始め、まずトウカイトリックとユニバーサルバンクが前との差を詰めにかかる。トーセンジョーダンが順位を上げる。後ろのオルフェーヴルは追い上げ体制に入っているようだが追い上げられていない。後続勢はまずナムラクレセントを飲み込むが、前2頭とはまだかなりの差がある。ビートブラックはゴールデンハインドを振り切り、先頭で直線に入った。 この時点で3番手に来ていたのはユニバーサルバンクだったがもう限界。代わりにトーセンジョーダン、ギュスターヴクライ、ジャガーメイルと追い上げるが先頭との差は大きい。ビートブラックが4馬身の差を残して勝った。2着トーセンジョーダン、3着は終盤追い込んだウインバリアシオン。
ビートブラックは今まで逃げたのは1度だけだが、これまでも「自分が行ってもいいけど」という雰囲気で他馬が行ったので控えたレースがあり、積極策は意外ではない。ただし逃げ馬でないため、自分で逃げればより心身の消耗が激しかっただろう。ゴールデンハインドが速いペースで行ってくれたため、追走するだけで「先頭に立たずに他馬を引き離す」ことができた。馬に力があるのが前提とはいえ、幸運だった。 ただし鞍上の石橋脩騎手は、成功率は高くないもののローカルを中心に(直線の長い新潟1800、2000でも!)大逃げを何度も試みており、大逃げの経験値は結構高い。幸運に恵まれる資格があるだけの努力はしているのだ。だから今回利用された側の荻野騎手も、春天が廃止・距離短縮にならない限り、いつかは勝てるだろう。 1番人気で惨敗したオルフェーヴルの具体的敗因は今のところ分からない。万全の状態ならあの位置取りからでも勝てたかどうかは疑問だが、現実は負け過ぎである。原因が判明したとして、それが克服できるものなのかもわからない。
ビートブラックは前走が阪神大賞典の10着である。春天に出ない選択肢もあったはずだ。だが出てきて、勝った。個人的にはこういう結果は好きな方である。「勝ちたい気持ちの強い側が勝った」感じがするからだ。だが、負けた上位人気馬の立場ではどうだろうか。長距離戦は、乗り方を間違えると格下の馬に簡単に負けて大恥をかかされる。誰だって恥はかきたくない。だから残念ながら、今回のレースは春天・長距離戦に実績馬が出走しなくなる傾向を一層強めることになるのではないかと思う。
|