|| 倫敦納豆 11/05/03 (火)02:58
レベル低下が枕詞にされつつある春天だが、今回は比較的メンバーがそろったと見られていたように思う。現4歳勢のレベルが上の世代(の牡馬)に比べて大幅に高く、その4歳勢はクラシック上位だった馬が(これでも)多めに参戦してきたからである。
メンバー中に明確な逃げ馬がおらず、スローペースが予想されていた。その中で逃げそうだと思われていたナムラクレセントが出遅れてしまう。まず前へ出るのはゲシュタルト、ビートブラック、ペルーサあたり。ヒルノダムール、トゥザグローリーらも前へつける。ペースは3F目で早くも12:9と緩み、この後もスローで流れていく。 初めの1000mは1:04:2。この1周目の直線でコスモメドウが外から一気に先頭を奪う。だがそれほどペースは上がらない。ところがこの動きに刺激されたか、馬群の外側にいたトゥザグローリー、マイネルキッツ、コスモメドウがつられて前へ行ってしまう。トゥザグローリーはコスモメドウと並ぶが、コスモメドウが引いてトゥザグローリーが先頭に立つ。2頭の後ろにマイネルキッツ、ゲシュタルトと続く。ペルーサ、ヒルノダムール、ローズキングダム、エイシンフラッシュなど主な馬は中団にいる。トゥザグローリーもまた、先頭に立つと必死にペースを落とし出す。 ところが残り1500mあたりで、出遅れていて中団にいたナムラクレセントが突如動いて残り1300m弱の地点で先頭を奪う。今度は確信犯だったようで、そのままペースを落とさずに引っ張り始める。 これに反応していたのはローズキングダムで、外の4番手にまで上がってきた。当然トゥザグローリーやマイネルキッツは反発して先頭を追う。全体の流れが一気に速まり、フォゲッタブルやジャミールも外から押し上げようとするが、ヒルノダムール、ビートブラック、エイシンフラッシュは逆にここを力のためどころと見たようだ。 押し切りを狙うナムラクレセントを追いかけて直線に入る。マイネルキッツが迫るがなかなか並べない。そのほかの先行勢は伸びないが、内から外へ出したヒルノダムールがよい位置から抜け出しそうだ。そこに内からマカニビスティー、外からエイシンフラッシュが迫る。最後はヒルノダムールとエイシンフラッシュが一騎打ちとなり、ヒルノダムールが競り勝った。
勝ちタイムは3:20:6。稍重を考慮しても遅すぎるタイムである。ただし残り6Fで1:11:9という部分を切り取れば、それなりにきつい面はあったのだろう。それでも、タイム面から今回のレースレベルを擁護はしづらい。
ところで気になったのが上位馬の前走である。1、2着が大阪杯でこれはもちろん良い。3、4、5着は阪神大賞典で、これらの馬の人気順を考えれば上々の結果であろう。だが同じ阪神で行われた日経賞が(1、2、4番人気を含みながら)惨敗である。そして日経賞だけが阪神の外回りで行われた。 今回のレースは、(ナムラクレセントを除き)誰も先頭に立ちたくなくてスローだったこと、それが原因で先頭が何度も入れ替わり、しかも突然ナムラクレセントが捨て身の仕掛けをする出入りの激しいレースだったことが特徴である。外回り、というより大回りを得意とする馬は、今回のような不測の事態に対応できない傾向があるのではないだろうか? 一般に競馬のあり方について、「長い直線で存分に末脚を発揮できることが望ましい」とする思想があり、現実の競馬場も大回り主義になりつつある。確かに「種」の選抜としてはそれが正解なのかもしれないが、そうして選ばれた馬が「逞しくない快速馬」だとすると、心に抵抗感が残る。
もう一つ、さらに個人的な感傷で恐縮だが、今回のレースを見て私は過去の2レースを思い出した。一つは05年春天で、このときも先頭に立って苦しむ四位騎手を和田騎手が交わす場面があった。もう一つは09年東海Sで、行きたがる馬が次々に先頭に立つ乱戦だった。いずれも芝とダートを代表する長距離戦である。 今回も含め、長距離戦の敗者(特に力を出せずに敗れた場合)は、より愚かに見える。短・中距離戦では、ミスで着順が悪くなっても、長距離戦ほど格好悪くはならない。だが逆に、だからこそ長距離戦は面白く、尊いのだと思う。騎手の作戦の比重が高まる分、馬の能力選抜には向いていないのだろうが、今後も長距離の「勝負」は楽しみである。
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